オープン・リレーションシップ
10年もののフルボディの赤ワインは、口に甘く、苦かった。
テーブルの上には、ワインの瓶、缶ビールの他にも、冷めた肉やフレンチサラダの皿が散乱したままだった。
N子さんは、Jさんとのセックスを終えて、ボンヤリした頭を叩きながら、あくびをした。
夫は隣の部屋で酔い潰れていた。
Jさんは近所に住んでいて、夫の犬の散歩友達でもあった。
お互い娘がいて、学年は違うけれども同じ小学校に通っている。同じ空手の教室にも通っている。大会があると、一緒に応援に行くような間柄でもある。まぁ、言ってみれば、N子さんの夫とJさんは“パパ友”でもある。
N子さんは、静岡県内在住。仕事は美容関係。Jさんも美容業界の人で、同じ世界の大先輩でもあり、また華々しい経歴もあって、尊敬もしていた。そんなこともあって、家族ぐるみでお付き合いをしてきたのだが、Jさんが自宅の庭でバーベキューパーティーを行うということで、N子さんは夫、娘と3人で訪れた。
Jさんはシングルファーザー。父と娘2人で生活をしている。親の残した手広い家で暮らしている。
バーベーキューも焼く食材が一巡して、賑やかな空気が落ち着き出すと、娘たちは揃って図書館に出かけて行った。自転車で坂道を駆け下りていった。
大人3人で酒を楽しく飲み交わしていたのだが・・・夫は先に酔いつぶれてしまったのだ。
そして、N子さんは酔った勢いで、Jさんとの肉体関係に至った。
でも、実はN子さん、ホロスコープの勉強をしていて、Jさんとの相性を診ていた。
これはヤバい奴だと知っていた。
当然、最初はそんなことは知らず、N子さんは家族ぐるみで付き合い出して、同業者だと知って、いろいろ仕事の話もするようになって、この人、なんか素敵だなと思っていた。
N子さんは30代前半で、Jさんは40代半ば。年齢の差があって、相手にはされないだろうと思っていた。だが、星占いをする友人と一緒にホロスコープで2重円を作って、星を読んでみて・・・これはもしかして、あるかもしれないと思っていたが・・・そうなった。というわけだ。
では、何故、こんなアクシデントが起こってしまったのか。
N子さんが事前に見ていたという、N子さんとJさんとの相性の星並びから解説しましょう。
相性鑑定は、2人のホロスコ―プを重ね合わせることでできるアスペクトなどを読んでいきます。
内側がJさんで、外側がN子さんです。生年月日は内緒です。
【ここでホロスコープ初心者の方のためにアスペクト(角度)のことを簡単に伝えると、星同士の角度が0、60、120度の時は“吉角”と言って、良い働きをする角度。90、180度、つまり直角か、真裏に星が来ると、“凶角”と言って、強く出過ぎて、害になりやすい影響を与える角度。詳しくは私のサイトを見てね。】
内側Jさんの月☽、金星♀、火星♂、冥王星♇と、外側N子さんの月☽、水星☿、天王星♅、海王星♆がグランドクロス(十字架)を形成しています。グランドクロスとは、180度凶角が90度凶角に交わるという強い凶角アスペクトであります。
また、今回はその構成している星が問題でありまして、金星♀と火星♂のアスペクトを私は“エロ星”と呼んでいます。マークがオスとメスのマークですからね。肉体的な、野性的な恋愛を意味します。ぼぉっと心に恋の炎が立ちやすいです。そこに徹底的とか、SEXを意味する冥王星♇が加わると、変態度が増すので、私は金星♀、火星♂、冥王星♇の3つの星でのアスペクトを“変態エロ星”と呼んでいます。
星の数が多ければ多いほど、アスペクトの効果は増します。またエロ星の場合、凶角の方が引き付け力は高くなります。ということで、8個の星での変態エロ星グランドクロスというのは、惚れ込む力がかなり強いものであります。
でも、ホロスコープをよく見ると、金星♀、火星♂、冥王星♇の変態エロ星は、内側のJさんがそもそも持っているアスペクトであります。つまりJさんは相性では変態エロ星の関係ができやすいということです。Jさんは結構、モテる人だということが分かりますね。熱愛されやすいというか、間違いを犯しやすいというか、遊び人になりやすいというか。
Jさんは、離婚して、今はシングルであります。もう恋愛はしないと宣言しているのだそうです。
若い時に、ある女性と付き合っていて、その女性はストーカー化して、別れた後も付きまとわれたそうです。ついには包丁を持って、当時住んでいたマンションに現れ、Jさんは3階の窓から逃げたとそうです。
まぁ、この星並びを持つ人にはありそうなエピソードでありますよ。
そんなJさんの4つの変態エロ星アスペクトに、N子さんの星が4つも90度凶角で交差しているという具合なのですよ。
そもそも、星が4つも180度凶角に並んでいるだけでも珍しいのに・・・N子さんとJさんはそれぞれ4つの星が180度凶角に並んでいて、それが、お互いに90度に交差していて・・・グランドクロス(十字架)を形成するって、かなりのレアパターンです。
2人合わせると、月☽、月☽、水星☿、金星♀、火星♂、天王星♅、海王星♆、冥王星♇のグランドクロスとなるので、意味あるアスペクトが多数できています。エロ星以外にも、例えば、金星♀と海王星♆の凶角は“色気星”と私は呼んでいて、ラブスキャンダルを起こしやすい星並びもあります。他にも火星♂、天王星♅、冥王星♇は“居場所無い感”の星並びとか・・・ここではキリが無いので省略させてもらいます。
一方、水星☿、火星♂、木星♃の120度吉角もあります。
水星☿と木星♃はコミュニケーションがよくできる相性であります。以心伝心とまでは行かなくても、一言えば十伝わるような、互いに行間から真意をくみ取ってくれるような関係となります。水星☿と火星♂はよく議論ができる相手となります。平たく言えば、よく話ができる相手ということになります。
これらの星並びから、N子さんとJさんはよく話も通じるし、熱愛レベルの恋愛感情も湧きやすかったことが分かります。
また吉角にしろ、凶角にしろ、アスペクトが多くできればできるほど、腐れ縁度が高くなります。
つまり、この2人の間には結構強い引力が働いていたと言えるのです。
一方、N子さんと夫はどうかというと・・・。今度は夫婦の相性を診てみましょう。
内側が夫で、外側がN子さんです。
夫の太陽☉、土星♄とN子さんの太陽☉、金星♀が120度吉角を形成しています。
金星♀と土星♄の吉角アスペクトを私は“ときめかない星”とも呼んでいます。エロ星が野性的、下半身的で衝動的な、情熱的な恋愛だとすると、こちらはまったくその逆で、まったりとした“癒し”の感じを与えます。あまりときめきがなく、どちらかと言えば、おじいちゃん、おばあちゃんの縁側の茶飲み友達的な関係になります。“癒し”はあるけれど、“ときめきがない”ので、私は“ときめかない星”とも呼んでいるのです。
そのときめかない星が2つの太陽☉によって、パワーアップされているということです。かなり強いときめかない星です。
実際、友人からは、高齢のご夫婦みたいに落ち着いているね、と言われたことがあるそうです。
そして、もう一つ、夫婦としてはネガティブな星並びもあるのですよ。
この2人の関係には水星☿と木星♃の凶角が2つもあるのですよ。
相性での水星☿と木星♃の凶角は、“話が通じない相手”となります。会話が無いということではありません。話が噛み合わないとか、無駄な話が多い割に大事な話に限って伝わっていない、大事な話に限って隠しているとか、コミュニケーションミスが起こりやすい関係ということです。
2つもあるということは、これはかなり意思疎通ができていないということであります。
上のN子さんとJさんは水星☿と木星♃の吉角がありましたが、こちらは凶角ですので、その逆ということになります。
N子さんと夫は、ほぼセックスレスでした。
2人とも10年ほど前に結婚し、今だ30代前半の盛んな年ごろであります。付き合い出した頃でも、年に数回しかなく・・・数はどんどん減っていき、そのわずかな機会の中で運良く娘さんが生まれたのだそうです。
夫は人間的には素晴らしい人で、尊敬もでき、一緒に居ると、まるで古民家にある林の中にいるかのように、心がゆったりとして落ち着くのだという。ただセックスに関しては、欲求不満が溢れんばかりになっていたと。
そこで、N子さんは友人から聞いた オープン・リレーションシップ というものを夫に提案してきました。
オープン・リレーションシップとは、カップルの間で話し合って決める条約のようなもの。平たく言えば、身体の関係も含めて、別の異性とも自由に付き合えるようにしましょうと取り決めを作るものです。
昔から、こういった内容のものはあったと思うのですが、グローバル化が進んで、横文字のものが入ってきたという感じですかね。カタカナになると、なんだか罪悪感がオブラートに包まれるというか。
N子さんは、結婚前からこのオープン・リレーションシップと夫にずっと提案してきました。
最近は、N子さん、プレゼン資料まで作って、夫に熱弁をしてきたのですが・・・そこは“話が通じない”夫婦だけあって、まったく会話、議論にならない。
水星と木星の凶角が2つもある関係ですからね・・・夫にはさっぱり理解できないだろうし、まるでスターウォーズに出てくる宇宙人の慣習くらいに思えていたのだろう。
で、N子さん、ついにこの10月にオープン・リレーションシップを強行発動する時が来たというわけです。
N子さんは、後から夫に伝えたという。
どんな感じだったのでしょうね。
“オープン・リレーションシップ、しちゃった。へへ。 (*^。^*) ”と軽く話したのか、
“オープン・リレーションシップ、させて頂きました。”と、美味しく頂戴しました的な言い方で土下座したのか、その辺りは不明ですが・・・。
夫も仕方なく、事後報告の形でオープン・リレーションシップを受け入れざるをえなかったわけですが・・・
ただ、ここが大問題な点でして、N子さんは相手がJさんとは話していないのですよ。
夫とJさんは近所の犬の散歩友達だし。パパ友だし。
娘たちは友達同士だし。空手教室仲間だし。
オープン・リレーションシップは、約定の仕方にもよるのでしょうが、外での恋愛行為はオープンにするということが前提なのだそうです。けれども、N子さんはオープンにできていない。
これも“大事なことに限って話せてない夫婦”ということですかね。
しかも、Jさんと肉体関係を持った後、心までJさんに持って行かれて、惹かれてしまって、忘れられなくなっているという。本人もまさかここまでのめり込むとは思わなかったそうです。それほどに良かったのだそうです。これも本人にとっては、どうにも困ったことになっているのです。
Jさんもまた言い寄って来ているそうです。
8個の星での変態エロ星グランドクロスができる相手ですからね。
やはり要注意の関係だったのですよ。
さて、このアクシデントの発生を考えるのに、このタイミングというものもあります。
その10月某日はN子さんと、Jさんはどんな運気の日だったのか。
まずはN子さんを診てみましょう。
この鑑定でも2重円のホロスコ―プを重ねることで、その時の運気が読めてきます。
内側はN子さん。外側が10月某日の星並びです。
いろいろアスペクトができていますが、注目は、N子さんの冥王星♇と、現行の金星♀、火星♂、海王星♆でグランドトラインができています。グランドトラインとは120度吉角が3つ組み合わさった強い吉角アスペクトです。
金星♀、火星♂、冥王星♇が組み込まれており、これは変態エロ星グランドトラインです。
性的欲望が特に満ち溢れていた日ということになりますね。
一方、Jさんはどうだったかとうと・・・
こちらもいろいろ怪しいアスペクトができていますが、特に注目したいのは、水星☿、水星☿、冥王星♇でTスクエアを形成しています。Tスクエアとは180度凶角と90度凶角が組み合わさった強い凶角であります。
水星☿と冥王星♇の凶角は“モラル破り”の星並びです。つまりモラル破りのTスクエアということになります。
この日に、この2人がラブスキャンダルを起こしてしまったことは、偶発ではなく、必然だった・・・と言えるかも。
ちなみにN子さんが参考したという友人夫婦のオープン・リレーションシップですが、その友人夫婦は離婚をしてしまったのだそうです。この手の約束事というのは、なかなか難しいようですね。
星を見れば分かりますが、Jさんそのものは悪い人ではないですよ。ただ2人の相性によって生まれる作用が 怪物 だったということです。
まぁ、本当はJさんのことは忘れた方が、家族のことを考えると良いのですけどね、惹きつけ力が異様に強いので、それはかなりの忍耐力が必要となります。まぁ、未練が残ることでしょう。奥深い渓谷にある修験者たちの滝に打たれて、心身とも仏になるくらいに生まれ変わらないと、この因果な欲望を断ち切ることは無理でしょうね。
私もね、“自分の魂を解放しなさい”なんて粋な言葉を投げかけて、アグレッシブに突っ走ることを助言したいところでありますが・・・夫のことはともかく、娘さんのことを考えるとですね・・・現実的に令和の日本に居る以上、Jさんとの関係は断った方が平和に過ごせるでしょう。溜息が出ますけどね。
もし、事前にN子さんが、Jさんと肉体関係を持つよ、と夫に伝えて了解をもらっていたら・・・まぁ、それも無かったかな。このケースでは、やっぱりオープン・リレーションシップは難しいでしょ。
N子さん、相手のチョイスを失敗したかな。
イラストは生成AIによるものです。