さようなら、名古屋シネマテーク
名古屋シネマテークが7月28日に閉館するんですよ。
名古屋の今池にある40席のミニシアターで、41年続きましたが、とうとう閉館になるというニュースを5月に新聞で知りましてね。ついにその日が来たか、という感じなんですよね。
ミニシアターというのは、まぁ、大きな映画館では上映されないような個性的な映画が上映されるものですがね、名古屋にもそういった映画館がいくつかあったのですがね、どんどんと姿を消していきまして。で、特に私がよく行っていたミニシアターが、この名古屋シネマテークだったんですよ。
20代から30代前半までは、最低でも週に1回はどこかに映画館に足を運んでいたけれど、特にこのシネマテークには足しげく通っていましたね。お世話になりました。
今池は、名古屋ではディープさ、カオスのある街だったのですよ。コロナ禍の影響ですかね。今ではすっかりすっきりとした全国チェーンのお店ばかりが並んで、コイン駐車場も増えて、見晴らしが良くなりましたけどね。もともと細い道が多く、朝までやっているお店が多い分、昼間は眠るようにひっそりしていて、路地には鼻に付くような匂いが漂って、猥雑だったですよね。そこにね、日なた嫌いの、ネズミのような人たちがね、集まってくるみたいな。で、そんな通りの中にポツンとこの小さな映画館、シネマテークがあると。そもそもシネマテークが半地下の居酒屋さんの上にありますからね。
ミニシアター、単館系の映画は正直、5本に1本ぐらいしか、観てよかったと思えるものに出会えないですよね。ついて行けないことも多い。でも、名作に出会えた時は、たいがい自分のかなり狭いスポットにぐさっと突き刺さってくるので、アグレッシブに心を鷲づかみにされて、その作品に惚れ込んでしまう。ミニシアターって、そんな体験ができる場所でしょ。
そんなミニシアターの中でも、シネマテークはですね、万人受けを狙わず、かたくなに自分たちが認めた作品しか上映しない映画館で、で、映画を通して、生き方や表現の良し悪しを教えてくれる良き師匠のような存在でもあったんですよね。私でなくても、名古屋の人間で、シネマテークに感性を磨いてもらったという人は多いのではないですかね。
シネマテークさんには数多く、強く印象に残る映画を観せてもらえたのですが、その中でも特に強く記憶に残っているのが、「クローズアップ」という映画なんですよ。イランのアッバス・キアロスタミという監督の映画なんですが、ちょっとだけどんな映画か話させてもらいますと・・・ある失業中の青年がいて、彼は映画を心の支えに生きていた。ある日、映画を観て、そのパンフレットを帰りのバスの中で読んでいたら、隣に座っていたお婆さんが、青年のことをある有名な映画監督と勘違いして、声を掛けてくる。家に招かれてしまう。そこで、青年は映画監督に思われたことが嬉しくて、映画監督になりきり、お婆さんの家族を舞台にして、映画を作ることに話が進んでしまう。嘘はどんどん上塗りされていき、シナリオや演技指導にまで及んでいき、結果、騙したことになって逮捕されてしまった。これは実際にイランで起こった事件で、青年は詐欺罪で訴えられる。
そして、この「クローズ・アップ」という映画は、実際の裁判の映像から始まる。
仕事がなく、失意の中で、映画だけを心のより所にしていた青年が、映画が大好きな家族と出会って、詐欺事件に発展してしまった。もしこの世に映画というものがに無ければ、起こらなかった事件なんですよ。映画は裁判、刑務所のシーンといくつかの再現シーンで構成されている。だが、驚くことにその再現シーンは、役者ではなく、本人たちによって撮影されているのですよ。青年と、お婆ちゃんと、その家族がセリフをちゃんと覚えてね、自分の役を演じているのですよ。
つまり、青年は「映画に出してあげるよ」と言って、家族を騙し、家族の方は「映画に出られなかった」ことで訴えて、詐欺罪の裁判になるのですが、その騙された様子の再現を本人たちが熱演して映画ができているという映画なんです。結果、家族は映画に出られているわけですよね。
観ている側は“どういうこと?”と勘繰ってしまうのですが、よくよく考えると、一緒に出演しているというということは、一緒に撮影に俳優として、青年と家族は映画に取り組んだわけで・・・映画に出られるなんて一生に一度きりのチャンスだろうし、その過程は彼らにとって、至福の時間だったに違いないわけで・・・映画の魔法が起こったわけですよ。映画が原因で起こった罪が、映画を通して溶けていったと。
何とも映画愛に溢れた映画で、映画好きな人間はたまらず涙してしまうのですよね。
ちなみに、制作したアッバス・キアロスタミ監督は2003年に名古屋シネマテークを訪れています。
シネマテークは、イランだけでなく、インドとか、東ヨーロッパとか、他の映画館ではお目にかかれない貴重な名作の数々を、40年以上に渡って名古屋の人々に紹介してくれたのですよ。もちろん、日本の監督も掘り出してくれてましたよ。園子温監督は、まだ無名の頃はこのシネマテークに入り浸っていたそうですよ。入り浸っているというか、昼間は映画観て、夜は今池界隈で酒飲んで、そのままシネマテークの上にあるスタッフの部屋に泊まり込んで、という居候状態だったそうです。なんか映画がじっくりしみ込んで、お漬物になってしまいそうな生活だったんですね。シネマテークは日本を代表するカルトな監督を生んだ、育てたとも言えますかね。個人的には、園子温監督の作品は、商業的に成功する前の方が詩的な表現が多くて好きだったんですけどね。
で、このシネマテークの代表が倉本徹さん(78歳)。
こんな映画館の代表ですから、彼もまた、当然、映画に心底魅了されて、虜になってしまった人なのであります。いや、映画の宣教師になったというべきか。もしくは、映画の神が遣わした使途か。はたまた映画の奴隷か。
代表という肩書はありますが、倉本さんはこのシネマテークが開館してから、実は1円たりとも給料をもらったことがない。それどころか、赤字が当たり前なので、倉本さんは河合塾で算数や数学の講師をやっていた。完全儲け度外視の“身削り館主”。だから、シネマテークに行っても、この倉本さんの姿を見かけることはほとんどなく、見かけたら、つい拝んでしまうほどなんですよね。
もともと倉本さんは大学時代に映画研究会に入っていて、卒業後も自主上映会をホールや公民館で開催してきた筋金入りの映画マニア。上映が増えてきて、自分の映画館を持ちたいと思っていたところに、居酒屋「六文銭」(ずいぶん前に閉店)のマスターからビルの2階が空いていることを教えてもらう。ビルのオーナーにかけ合ってみると、このオーナーがまた、いくつもの映画館を経営しているほどの大の映画好き。で、倉本さんに共感して、ポンと128平米の部屋を貸してくれたという。シネマテークって、ほんと映画大好きのエネルギーが充満しているんですよね。
でね、シネマテークはね、しれっと名作をかけてくれるんですよ。
そんなんだから、“シネマテークさんが上映するのなら、観てみようかな”という信頼があるんですよね。
昔だったら「ぴあ」ですかね、映画の内容は事前に、一応調べたりして選んだりするわけですが・・・でも、名古屋ではシネマテークって、映画の聖地なわけですよ。だから、疑ったりしない。毎年、玉石混合で山ほどの作品が生まれては枯れてたい肥になっているわけですが、そんな乱立する映画の熱帯雨林のジャングルの中を、映画の師匠は、たった一輪の虹色のカサブランカのありかに導いてくれるというか、そう信じて付いて行く。
そこがシネコンで、ディスプレイに並ぶ作品から選ぶのとは違う映画の付き合い方というか。YouTubeで予告見て、ネットで口コミを読んでというんじゃないのですよ。ただシネマテークの上映する映画は良作と信じて、観る。まぁ、そんな師匠に付いて行っても、もちろん、理解に苦しむ作品に出会ってしまうことも多々あったけれど、私個人的にはかなり打率が良かった。そりゃ、もう3割打者ですよ。ほんと、3割くらいかな。でも、映画って、普通5本に1本くらいしか、ぐっと来ないから、結構な強打者ですよ。
で、久しぶりにシネマテークに行って・・・前と変わらず、待合室の窓際に赤と白のソファーがあって、西日が差していて。このソファー、座ると、腰がずっぽりと埋まってしまうのですよ。これが心地良いのか、悪いのか・・・。この赤と白のソファーも私が行き始めた頃は無くて、20年くらい前から置かれていますかね。
まぁ、今回は映画ではなく、シネマテークを味わうために行ったのですけどね。私が観た映画は、「世界が引き裂かれる時」というウクライナの女性監督が2014年にドネツク州のある村で起った事件を題材にしたもので、親ロシア派によって人生が破壊されていく物語が描かれていましたね。そんなに期待はしていなかったですが、やはりシネマテークらしい名作を観せてくれました。
私のブログにいらっしゃる方は、星占いの話を期待されているでしょうから・・・そろそろホロスコープの話をさせてもらいましょうかね。
名古屋シネマテークは、1982年6月27日開館であります。ホロスコープは人間だけでなく、会社、建物、お店などの性格、運気なども診ることができるのですよ。
【ここでホロスコープ初心者の方のためにアスペクト(角度)のことを簡単に伝えると、星同士の角度が0、60、120度の時は“吉角”と言って、良い働きをする角度。90、180度、つまり直角か、真裏に星が来ると、“凶角”と言って、強く出過ぎて、害になりやすい影響を与えやすい角度。詳しくは私のサイトを見てね。】
目立つ星並びでいけば、金星と天王星が180度凶角(黄色のライン)を形成しています。金星は美で、天王星は個性とかこだわりを意味しますが、凶角は“出過ぎる”ことを示しているので、つまり、美とかセンスにこだわり過ぎているということでありますね。まぁ、とがっていたんですよね。
また太陽と海王星が180度凶角(水色のライン)を意味していますが、海王星は感性とか、夢とか、理想を意味しています。地に足は付かない感じにはなりますが、感性が出過ぎている、もしくは、夢、理想を抱き過ぎているということであります。夢見る夢子ちゃんになっている。
まぁ、おかげで私たちお客の方はずいぶんと楽しませてもらえたわけですけど。
今度は2重円でシネマテークさんの、閉館が新聞で知らされた5月12日の運気を診てみましょう。外側が5月12日の星並びであります。
ここでもまた目立つ星並びを紹介しますと、木星と木星が180度凶角(紫色のライン)を形成していますね。凶角ですが、これは悪い意味ではなく、“環境が一新する”ことを意味しています。人間でしたら、嫌な上司が転勤で去っていくとか、それまでの状況を掃除するようにきれいになっていく感じであります。
また太陽、木星、土星でグランドトライン(緑色のライン)が形成されています。グランドトラインとは、120度吉角が3つ組み合わさった強い吉角です。正三角形を形成します。木星と土星は、未来への地固めの運気であります。人間なら、引っ越しするとか、独立開業するといった人生の新しいステージを迎えるタイミングでもあります。
名古屋シネマテークの映画館としての灯は消えますから・・・生まれ変わる感じですかね。それとも、もう十分に役割を終えたので、成仏するような感じなのですかね。跡地には石碑が建って、多くの人が、その石碑に手を当てて、微笑みながら、今日観た映画の感想を語るような聖地になっていく・・・なわけないか。
ありがとう 名古屋シネマテーク。 さようなら 名古屋シネマテーク。